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福岡高等裁判所 昭和26年(ラ)39号 決定

本件抗告理由は、「原決定の理由とするところは訴訟遅延を防止し、当事者の損害を避けるためというに帰するようである。抗告人は訴訟促進を念願することにおいて人後に落ちるものでなく、却つて本件では原告として訴訟の進行を念願しているものであるが、本件の如き複雑な事件は簡単な貸金事件や手形金請求事件と違つて多少の日時を要することはやむを得ないところである。抗告人は原決定にも摘示されているように本件取引の不結果によつて経済的に大打撃を受け破産同様の状態に陥つている上に、昭和二十五年七月以来肺結核症にかかり治療中であるから、今後何回も福井地方裁判所に出頭することは不可能である。これに反し相手方は大分地方裁判所に出頭することについては、多少の不便はあるかも知れないが、経済的に困ることは殆んど想像されない。又相手方は多数の証人を申請しているがその主張の趣旨から考えて真に事件に関係のある証人はそれほど沢山あるとは考えられず、一方相手方の証言次第では抗告人の方では、更にその反証として証人を申請しなければならないことも予想されるが、それらの証人の住所は大部分大分市内及びその附近に存するのである。以上の次第で本件を福井地方裁判所に移送することは大局的に見て適切でないのみでなく、経済的並びに健康的に恵まれない抗告人にとつて実質上権利の保護を奪われるのと同様であつて、極めて不当な結果を来すから原決定を取消し、本件移送の申立を却下する裁判を求めるため本件抗告に及んだ。」というに在る。

よつて審按するに、本件訴訟における当事者双方の主張並びに争点は原決定に摘示する通りであり、而して本件記録によれば原裁判所が右争点を判断するには、従来当事者双方より提出援用された証拠だけでは未だ資料が充分でなく、更に証人等の尋問をなさなければならない段階にあること並びに現在更に原告側より証人三名及び原告本人、被告側より証人十四名の各尋問申出がなされ、右原告申出の証人中二名及び原告本人の各住所が大分市内にある外、他の証人の住所はすべて福井地方裁判所の管轄地内にあることが明かであつて、これによると本件は今後福井地方裁判所において審理裁判する方が適当であるように考えられないでもない。

然しながら当事者双方の主張に徴するときは、被告申出の証人は必ずしもその全部を取調べる必要はないのみでなく、右申出証人中には直接尋問の方法によらずに管轄庁に嘱託して尋問しても事足りるものがあるように推認される。(嘱託尋問をなすことによつて訴訟が多少遅延することはやむを得ないことである。)加之本件記録に徴すると、必ずしも本件における証拠方法の大部分が福井地方裁判所の管轄地内にあるものとは認め難く、訴訟の今後の推移によつては更に原告側より大分地方裁判所管内に住所を有する証人等の尋問申出があることも当然予想されるところであり、又本件記録並びに抗告状添付の納税証明及び証明書と題する各書面によれば、抗告人は本件取引の不結果により多大の損害を蒙り現在最低の市民税を賦課せられている状態にあるのみでなく、昭和二十五年七月以降肺結核症にかかり療養中であることが窺われ、本件を福井地方裁判所に移送するにおいては、爾後抗告人において本訴を維持継続することは極めて困難であることが予想されるのに反し、相手方は大分地方裁判所に出頭するについて多少の不便はあるにしても経済的に困ることは全然考えられない。

以上諸般の事情を綜合すると本件を福井地方裁判所に移送することは相当でないものと断ぜざるを得ない。

よつて相手方の移送申立を認容した原決定は失当であつて本件抗告は理由があるから民事訴訟法第四百十四条、第三百八十六条、第九十五条、第八十九条を適用し主文のとおり決定する。

(裁判官 小野謙次郎 竹下利之右衛門 中園原一)

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